豆ちしき
痒み掻痒感とカルシウムとリン
透析皮膚掻痒症は,血液透析患者の約70%にみられる頻度の高い合併症です。透析皮膚掻痒症の実態調査において、透析前の血中カルシウム(Ca)濃度、血中リン(P)濃度が至適濃度以上の症例(Ca 9.7mg/dL以上,P 5.6mg/dL以上)では、中等度以上の掻痒症が明らかに多く認められることが示されています。実際、日常臨床においても、高Ca血症・高P血症を呈している症例では痒みの訴えが多いように思います。
また、実態調査では、血清i-PTH値360 pg/mL以上においても、中等度以上の掻痒症が明らかに多くなることも報告されています。
さらに高PTH血症・高Ca血症を呈する2゜HPT例に対して副甲状腺摘出術(PTx)を実施したところ、痒みが軽減したとする報告が数多くあります。様々な報告を併せて考えると、透析前の高Ca血症や高P血症、および高PTH血症は透析皮膚掻痒症の発症に関係していることは確かなようです。
さらに最近では、汗腺や皮脂腺にCaやPが沈着して発汗や皮脂の分泌が低下し、皮膚が乾燥するために痒みが生じるという報告や、皮膚のPTH受容体を介して痒みが発現することを示唆した論文などが出されてます。また皮膚内のCa、P、PTHが掻痒の発症に直接関与するという指摘もありますが、機序の詳細は不明です。
したがって、血清Ca、P、i-PTH値を至適域に維持することも透析皮膚掻痒症の発症・悪化を抑制する1つの方法と考えられます。ただし、透析皮膚掻痒症は皮膚乾燥症をはじめ、代謝異常や尿毒症物質、アレルギー、心理的要因など種々の要因が重複して発症すると考えられており、一人ひとりの原因に応じた最も適切な対策と予防を行うことが大切です。
血清Ca値・P値を至適域に維持することは、高PTH血症、2゜HPTの予防の観点からだけでなく透析皮膚掻痒症を抑制する1つの方法としても考えられます。
Ca,Pに対する栄養学的なこと
腎臓が機能しなくなった透析患者は、低Ca血症と高P血症を介して2゜HPTや腎性骨異栄養症、血管壁を含めた軟部組織の異所性石灰化など生命予後を著しく損なう疾患を発症します。そこで、これらを回避するために、ビタミンD製剤や炭酸カルシウム(CaCO3)製剤などによる薬物療法、あるいは透析方法が工夫されていますが、加えて日々の食事への十分な配慮も重要です。一般的に透析患者はCaCO3製剤を服用していることが多く、Ca含有量の多い食品を摂取する必要はありません。最近では、骨粗鬆症予防として乳製品や小魚の摂取、Ca補助食品の利用が推奨されています。しかし、これらCa含有量の多い食品はP含有量も多く、透析患者では腸管内に負荷されるCaの増大ばかりでなく、過剰摂取にもつながります。 したがって、透析患者は乳製品や小魚あるいは補助食品で余分にCaを摂取する必要はありません。
透析患者は尿からのリン排泄がほぼ0であるため、排泄は透析と便に頼るしかありません。週3回、1回4時間の血液透析で除去できる1日当たりのPの量は約400mgで、これに便からの排泄を加えても、透析患者では1日700〜800mg程度のPしか排泄されません。 したがって、食事中のP摂取を1日700〜800mg以下に制限しない限り、高P血症が発症します。実際、ほとんどの透析患者が高リン血症を呈しており、2゜HPTや異所性石灰化を引き起こす可能性のある血清P値6.5mg/dL以上の患者は全透析患者の23.8%に及んでいます。
したがって、食事でのP摂取制限(低リン食)の徹底が重要な課題です。
タンパク質の過剰摂取を是正すること。
リン含有量の多い食品(乳製品、レバー、魚介類、そば、洋菓子、肉・魚の加工品、食品添加物としてリン酸化合物が使用されていることが多いコンビニの弁当やスーパーの総菜など)を控えることなどにより、食事からのリン摂取を制限するようにします。
しかし、Pの厳密な摂取制限は難しく、また透析患者の多くは栄養状態が不良であるため過度なたん白質摂取制限はできず、通常P吸着剤の投与が必要となります。この場合、吸着剤の飲み忘れがないかの確認に加え、栄養士、薬剤師、臨床工学技士などがそれぞれの専門性を生かし、個々の透析患者にあった適切な対策を講じて、血清Ca、P値を長期間、常に適正範囲に維持していくことが重要です。
食後時間をあけての吸着剤服用ではP吸着の効果が得られにくいので、食直後か食事中に服用すること。
透析時間の重要性
米国で行われた多施設臨床試験HEMOstudyでは、Kt/V(urea)を透析量の指標とすると、透析量を必要以上に増しても予後はほとんど変わらないという結果が得られている。
しかし、HEMOstudyでのKt/Vの増量とは透析時間ではなく、血流量の増量による報告である。
毎年、透析時間と1年死亡の相対危険度との関連を報告している日本透析医学会の調査においては透析時間が長いほどリスクは低いと報告している。
近年、安全で適正な透析時間を設定する指標として「透析時間×週あたりの透析回数」という方式での設定を有用とするHDP(hemodialysis product)が提唱され、長時間透析が重視されている。しかし、2002年の社会保険診療報酬の改定において、外来慢性維持透析における透析時間の包括化、食事加算の廃止が施行され、5時間以上の透析をおこなう施設が大幅に減少した。 本改訂により、透析時間の短縮、それによる透析患者死亡率の上昇、患者の受け入れ抑制、透析医療費の削減が進んでいる。
現在、日本の透析患者の1年粗死亡率は約9%だが、米国(透析時間は3〜3.5時間)では約30%にもなっている。
透析患者における合併症発症率や死亡率の増加を回避するためにも長時間透析の実施が重要であると考えます。